地方金融のグローバル化

地方金融が抱える課題と踏み出すべき一歩

技術革新による地方銀行の変化

近年、社会の技術革新が進み、産業構造や様々な職場環境が急速に変化しています。地方金融業界もその変化の波を受けており、地銀の在り方が大きく変わっています。民間のベンチャーキャピタルからの出資を受けるスタートアップが増え、地銀からの出資を辞退する企業が増えています。辞退する理由としては、自社に役立つ知識がない、魅力的なネットワークを持つ投資家ではないなどの声があり、地方密着型の金融機関が危機的状況に陥る可能性があります。
また銀行間で融資先を確保するための金利競争が激く融資での収益性が低下していたり、日銀がマイナス金利政策を取っている影響で地銀は地方債に投資をシフトして生き残りを図っているのが実情です。

東証市場改革が地銀の存続危機に

地銀が危機感を持つ問題はこれだけではなく、東証一部の市場改革案がその引き金になりえます。この改革案の経緯は、東証で抱える1部上場企業は約2000社を超えており、投資家が市場区分を見分けづらいことが問題視されています。これを改善するための市場改革案に「上場には時価総額250億円以上」を条件とする案が報道されています。
この250億円のボーダーラインに満たない地銀、第二地銀が全国地銀106行中16行あり、東証一部上場というステータスがなくなってしまうのではないかと危惧しています。地方での人材不足も懸念される中、金融機関としての能力が落ち込む可能性があります。

地銀運用の国債離れ

このような地銀が受ける荒波を乗り越えるための解決策に国債を思い浮かべるかもしれませんが、民間金融機関は国債運用に消極的です。その理由として、日銀の金融緩和策によるマイナス金利が挙げられます。昨年、日本銀行が保有する国債が500兆円( 2019年9月末時点 )を超えたことが報道各社に取り上げられました。これは国債の発行残高全体の約44%に相当し、前年比で6.6%増加して過去最高を更新しています。それとは対照的に地銀などの民間の金融機関が保有する国債は全体の13.1%の150兆円となり過去最低となりました。 これは2013年から日銀が行っている大規模な金融緩和策による金融機関からの国債買い入れが原因です。
日銀の金融緩和策で長期間の低金利状態が続いたせいで、利回りが低くなった国債の保有を減らす動きが民間金融機関に広がったことが背景の一つといえます。

地方金融活性化のファーストステップ

現代の地方金融を活性化させるための対策が、政府官公庁や各組織で行われています。

政府:地域活性化施策
内閣府が管轄する地域活性化統合事務局を中心に複数省庁にまたがる行政分野の横断的な地域活性化施策を実施しています。主に三つの取り組みとして、中心市街地活性化制度、総合特別区域制度、都市再生制度を実施しており、各制度に税制上や財政、金融などの特例・支援措置を設けて地域活性化を推進しています(注1)。

全国地方銀行協会:地域密着型金融による地方創生
一般社団法人全国地方銀行協会(以下、地銀協会)は所属する地方銀行に共通する問題対処のために活動する組織です。主に金融制度・金融政策・地方銀行にとっての重要課題などについての意見交換のためのミーティング開催と官公庁への提言や内外の経済金融動向、銀行経営に関する調査・研究、資料の収集・作成を行っています。2019年4月には内閣府へ地方銀行の重要性を提言する資料を提出しています(注2)。

日銀:ロンバート型貸出制度
この制度は、金融機関が日本銀行から公定歩合で短期資金を借りられる制度です。2001年2月9日の政策委員会・金融政策決定会合で創設が決まり、2001年3月16日から導入されました。従来の公定歩合貸し出しでは、日本銀行が、貸出先の銀行や貸出限度額を決定していましたが、この制度では、金融機関の申し出に応じて必要額(金融機関が予め差し入れた担保の範囲内)を機動的に貸し出します。
金融機関の資金調達を低金利で安定的に行わせる仕組みで、短期市場金利が公定歩合より上昇することを抑制する効果があります。

デジタルイノベーションによる地方金融の未来

先に上げた対策も地方金融に活路を見出すためには重要ですが、技術革新の波を利用することも一つの手立てです。2019年8月、世界銀行が分散台帳技術を用いた「ブロックチェーン債」発行を発表して話題になりましたが、日本の国債にもこの取り組みを応用できればひいては地方金融の活性化につながります。民間金融機関が日本銀行へ行う担保提示と日銀が債権の取り扱いに対して貸出先にあたる民間金融機関とのサイクルを早め、債券発行に関するコストを減らして新しいデリバディブを構築できるかもしれません。

地方金融が一朝一夕で変わることは難しく、事業モデルの転換や新技術の導入には時間がかかります。官公庁、民間金融機関、技術開発企業が一丸となって課題解決を行えるかが、未来の日本の金融発展につながるでしょう。


注1) 第4回 地域経済に関する有識者懇談会_内閣府資料を参照
注2) 議決権保有制限の規制緩和要望についてを参照


Writer : T. OGASAHARA

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